新外為法が施行されて以来、この有事規制は一度も発動したことがありません。緊急事態が発生した場合に実施する有事規制が適切かどうかは、同法に基づいて新設された外国為替等審議会が判断することになっています。しかし実際に発動するかどうかの判断は、法に定められた基準だけでは即断できません。まず何をもって「急激な変動」といい、「市場への悪影響」というのか、大蔵省の担当者も判断の難しさを認めています。八五年九月のプラザ合意後の為替相場は、五カ国蔵相会議(G5)の予想を上回って急激なドル安をもたらしましたが、それまでの“不自然”なドル高を是正する局面でもあったわけで、いくら変動が急がといっても有事規制を発動すれば市場原理に逆らうことになります。有事規制は一時的な「鎖国」であり、頻繁に使うと日本の金融市場や行政に対する海外からの批判が起きかねません。勢い、大蔵省としても慎重にならざるをえず、八七年央のドル急落時にはたびたび有事規制が取り沙汰されましたが、当時の宮沢蔵相は一貫して発動に消極的でした。八一年三月には日銀も有事に備えて基準外金利貸付制度を創設、内外金利差が異常に拡大して資本流出が止まらなくなった場合に実施することになっていますが、これも“抜かずの宝刀”になっています。また、外為法改正以前で最大の規制が実施されたのは、七一年八月のニクソン・ショック(ドルと金の交換停止)の時でしょう。外国為替銀行の外貨債務残高を抑える規制など考えうる限りの規制を動員しましたが、新外為法下の有事規制はそれに匹敵するか、上回るほどの事態が起きない限り、発動には至らないとの見方が増えています。